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ここは、「鏡幻屋」コラボパラレル作品『学園都市《天華》』の、長編及び各学園や島内で起こる日常の小ネタなどを置く、小説広場です。
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氷月祭プレSSその1、再録・加筆修正済です。



――10月末。
秋も本格的に深まり、冬に近づき始めた今日この頃。
青空の下で輝く朝は、少し肌寒い。まだコートが必要なほど寒いわけでもないが、休み明けで引き摺る眠気が覚める位には、冷たく澄んでいる。

そんな時間帯、登校する学生と教師で溢れかえるアッシュフォード学園中等部の校門前で、1人の少年と少女が顔を合わせた。
「おはよう、エディ」
「…おはよ、ユーリ」
少女が元気に挨拶をし、少年はそれに気だるげに返した。まだ眠そうに金色の頭を振る少年に、少女は苦笑して見せた。
「昨日遅かったから、もうちょっと寝てると思ってた」
「ナナリー先輩に起こされたんだよ。遅刻するって」
「エディは寝起き悪いからね。あ、今日は『姫会長』に定期報告する日でしょ?先に出しといたよ。書類、机に置いてたやつでしょ?」
「サンキュっ。ったく、何で毎月面倒な報告書かなきゃいけねぇんだか!」
「特待生の定めと思ってなよ。おかげで飛び級のないこの島でも、特別待遇してもらえるんだし」
「オレとお前の頭脳提供への対価としては、当然ってもんだろ」
それでも安いくらいだ、と言いながら歩く双子の相方に、ユーリは彼とは似つかないしなやかな黒髪を揺らしてクスリと笑った。

実はこの2人―エドワードとユーリは、学園内どころか国際的にも有名な双子である。
現在中等2年生だが、今は亡き両親が世界的に有名な科学者であったせいか、その頭脳の高さは幼い頃より天才の域にあった。
しかし、年齢に不相応な才能と依然無自覚な容姿の高さは、2人を同世代の人間から孤立させてしまう要素であり、よからぬこと考える多者を招く的にしかならない。それを心配した後見人夫婦は、武術面でも優秀な彼らの娘である幼なじみと2人の弟をつけ、この学園都市《天華》に入れたのだ。
しかも、ユーリといつの間にか知り合いになっていた《王姫》――ユーリやエドワードは「姫会長」と呼んでいるが――から奨められた難関試験を合格し、学園内でたった2人の「特待生」という立場を手に入れた。
この「特待生」という立場は、大変特殊なものである。
《王姫》への毎月一度の研究成果報告義務と引換えに、希望すれば更に上級・他学園の授業を受けられるようになるほか、大学に研究室を持てる、世界中から読みたいどんな書物をも取り寄せることもできるなど、《天華》の総力をあげてありとあらゆる恩恵を受けることができるのだ。
おかげで、2人はそれなりに充実した日々を送っていた。

それはさておき、玄関をくぐった2人は、エドワードの方はぴたりと一瞬だけ足を止め、通い慣れた下駄箱へと足を進めた。
「…相変わらず、派手なこと好きだなぁ」
ため息交じりに呟いて、彼は天井を見上げた。
クリーム色の天井から下がっているのは、色とりどりの布やコウモリのぬいぐるみ。そこかしこには、表情豊かなオレンジ色のカボチャが飾られ、その隙間を埋めるようにおばけや黒猫の人形が置かれている。
この学園都市を知らない者ならば、一体何事かと顔を引き攣らせるだろうが、生徒は愚か教師すら、エドワードのように一瞬驚くか面白いと感心するだけで、誰もこれをおかしいとは思わない。
ユーリも例外ではなく、楽しそうに上を見上げた。
「すっごい装飾でしょ。私も驚いた。昨日生徒会全員で飾り付けやったんだって」
「さっすが、ミレイかいちょー。でもいいのか?こんなにして」
「学生会から認可は下りてるらしいよ。他の学校もみたい。朝聞いたら、姫会長楽しそうだった」
「おい…今日一日、こんな中で過ごせって?面白いからいいけど。ホント、お祭好きだよな~」
「いつものこと、だよ。でも、普通じゃ絶対体験できないもんね。あ、姫会長から今日を楽しめ、だってさ。これは、そのための魔除けだって」
首を傾げた片割れに、ユーリが何かを渡したとき。
My Eddy, trick, or treat?
ムスクの香りとともに、エドワードの背中へぐっと重みがかかった。
それだけで誰だかすぐにわかる。なので、彼は頬を赤く染めながらも、思いっきり顔を顰めた。
「げっ……」
「おはようございます。マスタング先生」
「おはよう、ユーリ君。そしてなんだい、その変な顔は」
「うっせぇエロ教師。朝からオレにくっつくな。あとエディ呼ぶな、テメェのモン扱いすんな」
鬱陶しいと背中の青年…中等部2年の学年主任であるロイ・マスタングを引っぺがし、女性に大変受けのいい(エドに言わせれば無駄に女たらし)甘く整った顔を睨みつけた。
棘のある金色の瞳を可愛いと思うロイは、つれないね、と苦笑しながらエドワードに向かって片手を出した。
「何だ、この手?」
「君は先程言った言葉を忘れるほど、耄碌したのかね?」
もう一度言おうか、という申し出を、寸前で思い出した彼は慌てて首を横に振り、考え始めた。
基本甘いものは好きだが、人気の高い彼は大抵身内や友人、先輩たちからよくお菓子を貰うので自分で持ってはいない。
仕方なく、去年のように隣にいる片割れに菓子を強請ろうと思った、矢先。
「あぁ。去年みたいに、ユーリ君から貰ってというのは認められないからね」
ユーリに声を掛けようとしたのを見越して、ロイは先に手を打つ。ぐっと言葉に詰まったエドワードを見て、彼は内心ほくそ笑んだ。
一方、エドワードもどういうつもりで彼がそれを言ったのか、見越している。ここへ来てから、再三言われて続けてきた甘い言葉の数々と裏に隠れている欲には散々な目に逢ってきたのだ。
何とか手はないか、と必死で考え、ふと手の中に握りこんだそれを思い出し……途端に、その意図を理解した。
悔しそうな顔をして、ロイから視線を外し顔を伏せる。
「先生、オレ……」
「そうか。ならとびきりの悪戯を…」
「悪いけど、今年はこれでカンベンな♪」
伸ばされた不埒な手をかいくぐり、エドワードはにこりと笑った。
行き場を失くした手…ではなくぽかんと空いた口の中には、飴玉が1つ。よく見かける昔懐かしの大玉(薄荷味)だ。
「さすが、神様。何でもお見通しってな」
「神様?…あぁ、そういえば君たちは王姫のお気に入りだったね。まさか先に手を打ってくるとは…今年はしてやられたっ」
「残念だったな、ロイせんせ♪」
「今から口移しで返してもいいかい?」
「そんな情けをかける余地、1mmもないね」
期待外れな独特の味とともにがっくり肩を落としたロイに、エドワードは至極上機嫌に、悪戯小僧そのものな顔でにやりと笑った。
が、それで挫ける彼ではないことをすっかり忘れていた。
「ぎゃーーっ!テメっ、何しやがる!!」
エドワードの頬に軽くキスをしたロイは、叫び声を予想していたのか、慌てることなく自らの耳を押さえた。
「何って、挨拶じゃないか。朝の習慣だよ。今年は悪戯ができなかったことだしね」
「ココの挨拶の習慣に、そんなのは無ぇ!!」
「ハハッ。驚くことはない。恋人同士では常識だよ。それとも、そんな涙目になるほど嬉しかったのかね?」
「恋人じゃねぇ!あとこれは生理的嫌悪だボケ!!」
始まった2人のじゃれあいを微笑ましく見ていたユーリだったが、そんな彼女の背後から2人の傍観人がやって来た。
「毎年っていうか、毎日毎日飽きないわね、あの変態教師」
「たまに土に埋めたくなっても、僕は悪くないよね?」
またかと言う呆れ声と、黒いものが滲む爽やかな声。立っていたのは、いつの間にやら着替えを終わらせてやってきた、幼なじみのライカと弟のアルフォンスだった。
「ライちゃん、アル君。おはよう」
「おはよ。もうすぐ授業始まるわよ」
「あ、待って。姫会長から、今日を楽しめって指令が来てるの」
そう言い置いて、諦めの悪いロイと応酬を繰り広げるエドワードにとてとて近寄ると、こちらを向いた彼と顔を合わせて悪戯っぽく笑った。
ロイにはよくわからなかったが、エドワードにはそれだけで十分理解できたらしい。
2人がそれぞれ右手と左手を合わせて、ロイの前に突き出した。
「「Mr.Mustang, Trick or treat!!」」
完璧な発音付きで、天使と称される無邪気な2つの笑顔が、ロイに向けられる。普段なら甘く相好を崩しているところだが、今日のそれは小悪魔に見え、さらにはないはずの悪魔の羽と尻尾が見える気がした。
こんな時のために用意したお菓子を出すため、スーツのポケットに手を入れようとするが、それより早く透明な小玉が滑り込み、奥でぽんと弾けた。
「げっ、何だこれは?!」
ロイが驚きの声を上げた。割れた玉には特殊な接着剤のような液体が入っていたようだ。おかげで、ロイのポケットの中は、謎の接着剤まみれとなったお菓子が内側にべたりとひっつき、完全にその状態で固まっていた。
「見たか!オレとユーリの開発した、『瞬着玉』の威力をっ」
「他学園のお客さんからの注文なの。試作中だけど、1個300円の予定っ。いっぱい作って、そのおかげでちょっと寝不足だけど」
欠伸を噛み殺す片割れの隣で、パチンコを構えるエドワードの目がきらりと光った。
「その様子だと、菓子はないようだなぁ?」
図星をつかれたロイの肩が不自然に跳ね上がったのを、2人は見逃さなかった。
「本当だね。これはイタズラ決定だよね」
「えっ、今のはイタズラじゃないのか?」
「やだなぁ。これは悪戯じゃなくて、先制攻撃なんだよ」
「攻撃はいいのかい?!」
「さって、どうすっかなぁ。プランAも捨てがたいが、Dもいいしなぁ」
オロオロするロイを放り相談を始めた双子。だが、そこへ厳しい声が飛んできた。
「あなたたち、そこで何しているの。もうすぐHRよ」
現れたのは、パンツスーツをそつなく着こなし、鋭い瞳に知的な光を宿らせるクールビューティー……エドワードとユーリの担任でありライカが姐様と仰ぐ師、リザ・ホークアイだ。
『おはようございます、リザ先生!』
「おはよう。ユーリちゃん、エドワード君。ライカちゃんとアルフォンス君も」
教え子たちの元気な挨拶に、思わず顔を綻ばせて優しく返した。が、すぐに隣で冷汗をかく学年主任に鋭い視線が向けられた。
「それで、マスタング先生はどうしてこんな所で、生徒たちを引きとめていらっしゃるので?」
「え、いや…引き止めたわけじゃないんだが;」
鷹に狙われた獲物のような気分になったロイは、たじたじとなった。同学校の先輩後輩というのもあるが、昔から自分の補佐をしてくれているこの同僚に、彼は頭が上がらないのだ。
この様子を見た双子はにんまり笑みを深め、憧れの視線をリザに送り続けるライカの方をくるりと振り返った。
「そういえば、リザ先生って、この島で唯一何とか許可証っての持ってるって噂聞いたけど」
「……あぁ。マーダーライセンスのこと?噂じゃないわ。持ってらっしゃるわよ」
「あ、それ知ってる。それ持ってると犯罪者を捕まえる時に、万が一殺しちゃっても、お咎めなしになるんだよね」
映画でしか見たことないけど本当にいるんだ、とアルフォンスが感心する前で、彼の兄姉は目線を合わせ、同時に頷いた。
そして、ロイに説教をし始めかけていたリザに、ユーリが声をかけた。

「先生、マーダーライセンスってどうやったらもらえるんですか?」
「来月試験があるからそれに合格すればいいわ。事務室で手続きしてらっしゃい、参加費は3千円よ」

 

答えを得たと同時にくるり、と振り向いて、輝かしい笑顔で片割れを見やった。
「だって。エディ」
「ほぉ、そうか来月か。申し込みは今日行くとして…ホークアイ先生にご指導お願いしようかな」
リザの方を振り向いたエドワードは悪戯っ子の顔そのもので、彼女にお伺いを立てる。
中学生とはいえまだ幼い子供たちなので、いくらなんでも断るだろうとロイが思いきや、彼女は思案するどころか即答で承諾の返事をした。
「エドワード君なら歓迎よ。筋が良いから、教えがいがあるわ」
「ホント?!やったねっ」
「頑張ろうね。私も一緒に勉強するから」
これに驚いたのはロイだった。
「ゆ、ユーリ君も受けるのかい?!」
「はい。あの、2人だったらお邪魔ですか?」
「とんでもないわ。ユーリちゃんもいらっしゃい。2人とも、今日から面倒みてあげるわ」
「「よろしくお願いしまーす!」」
二つ返事で引き受けてくれたクールビューティーに、2人はきれいなお辞儀をしてみせる。
「というわけで、マスタング先生」
「この仕返し(イタズラ)は持ち越しってことで」
「「1ヵ月後を楽しみにしてろよ(てね)!」」
輝かしい笑顔で恐ろしい捨て台詞を言い残し、双子たちは彼らの敬愛する担任の女帝とともに自分たちの教室へと引き上げていった。
嵐の後に残されたのは、顔色を最初とは正反対の真っ青にして今にも崩れそうな哀れな大人と、双子の保護者的存在たちのみ。
「…先生、大丈夫?」
「こういう時は無理しなくていいんですよ」
「ライカ君、アルフォンス君…っ」
労わりの言葉をかけてくる生徒たちに感激するロイだが、しかし、ここで忘れてはいけない。
双子の保護者たちは、同時に双子の『協力者』たちでもあるのだ。
「せめてお葬式は、先生のもっとも輝いていた時の写真を引き伸ばして飾ってさしあげます」
――グサっ。
「安心して。墓前には、先生の好きなクイーン・カメリア(薔薇の一種)の花束供えてあげるわ」
――グサグサっ。
双子の真意を汲み取った言葉をかけると、2人は早々に各々の教室へと姿を消し、止めを刺されたロイは真っ白になって今度こそ床にへたり込んだ。

ロイは、知らない。
本当は毎年酷い目(セクハラともいう)にあわされてきたエドワードのために、ユーリが今年は密かに学生会に相談していたを。
よって、彼が現れた最初から行われたすべての言動は、前日までに立てられた彼らの計画であった…ということも。


「ま、待ってくれっ、エディーーー!!」

哀れな大人の叫びは、同時に響いたHR開始を告げるチャイムによって、見事に掻き消された。


これが双子流ハロウィンの悪戯だけですんだのか、この日のうちに申し込みを阻止できたのかどうかは。

……その後報告を聞いた『王姫』が大爆笑したことから察してほしい。


 

イタズラ日和の月曜日
~ホークアイ先生と
可愛い生徒たち(+α)~




〔マーダーライセンス〕=〔殺人許可証〕らしいです。本当にあったらリザ姉さんが持ってそうな気がしたんで(笑)
特待生のエド&ユーリの担任は、クールビューティで影の女帝と名高いリザ先生です。ちなみに副担はヒューズさん。ライカの担任がロイ先生(副はアームストロング先生)で、1学年下のアルの担任はハボック先生。アルは学級委員長を務めているので、ハボさん結構頼っていたり。
実はこの学校を選んだのは、転校前にリザと偶然出会って一目惚れし姐さんと仰ぎだしたライカが発端だったりします。
季節外れのハロウィンですが、リザ先生とその生徒たちが書きたかっただけでした(笑)


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