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ここは、「鏡幻屋」コラボパラレル作品『学園都市《天華》』の、長編及び各学園や島内で起こる日常の小ネタなどを置く、小説広場です。
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ヴィ家親子とシエル&セバスのお話。ルルーシュ達が学園へ通いたい、と言う話です。
結構、ごちゃごちゃ混ざってます(笑)




ブリタニア帝国、宮殿。
ファントムハイヴ伯爵家の若き次期当主、シエル=ファントムハイヴは、その日、終わりの見えない廊下を静かに歩いていた。
供に連れているのは、たった1人の若き青年執事。彼もまた黙々と、幼い主人に付き従うのみ。
彼らの纏う色彩が黒というのもあり、彼らはこの白亜の宮殿において、まるで影そのもののようだった。
向かい側の回廊を通る貴婦人の一団が、2人を見てさざめくのが聞こえた。
「相変わらず人気者ですね、坊ちゃん」
彼女たちの話が聞こえた執事が、思わずクスリと笑った。
シエルは、興味がない、と言わんばかりの冷めた目で、己の執事を窘めた。
「嫌味は止せ、セバスチャン。僕がここでは珍獣扱いされていることなど、百も承知だ。今更だろう」
「えぇ。まるで、動物園の檻の中を歩かされている気分ですよ」
多分に毒を含んだ言葉に、シエルは鼻を鳴らすだけで何も答えなかった。彼もセバスチャンも、この手の好奇の視線が嫌いなので、機嫌が相当悪かったのだ。
「しかし、妃殿下直々のご招待とは、一体何でしょうね」
「さてな。僕の宮殿嫌いを知ってる上で招かれたということは、何か重大なお話がおありなのだろう」
そう言ってから、彼は嘆息した。

彼の言う通り、今日の彼らはこの国の皇妃の1人に招かれた客だった。
いくら彼女と懇意にしている伯爵家の子息であれ、爵位を持っているのは彼の父親なので、こうして2人だけでは王宮になど易々と来ない。その上、幼い頃ならともかく、すっかり人前に出るのが苦手になってしまったシエルは、今では余程でない限り王宮へ足を運ばなくなっていた。

「まぁ、あの方からのお呼び出しですから、坊ちゃんにとっては碌な事ではないのでしょうけれど」
「……言うな。ここにいたことがあるお前が言うと、事実になりそうだ」
シエルの行く気が削がれるようなやり取りをしながら、複雑な廊下を迷うことなく歩き、そうして正門から一番遠い離宮へと足を踏み入れた。
訪れる者たちが最初に入る部屋は、小さな客間。そこで使用人を呼んで、目当ての人間に繋いでもらうのが、一般的なルールだ。
しかし、2人はそのまま部屋を素通りし、勝手知ったる風に先へ進んでいく。2人に関しては、特別にこの宮の主がこのことを許可していたし、何より、例えば無許可であった場合、この時点で侵入者とみなされ、とっくに彼らの命はないはずだ。
離宮の中の回廊を進んで奥へと行き、彼らはやがて小さな庭園へと出た。
そこは、何重にも入り組んだ薔薇の生垣による迷路があった。
丹念に育てられ咲き誇る色とりどりの薔薇が、規則正しく模様を描く石畳をその花びらで埋め尽くしている。
その中央に設けられた東屋に、1人の女性と1人の少女の姿があった。
「失礼いたします。マリアンヌ皇妃様、ナナリー皇女殿下」
己の執事を後ろへと下がらせたシエルは、彼女たちから少し離れたところで地面に片膝をついて臣下の礼を取った。
「いらっしゃい、シエル。そう畏まらないでちょうだい。他ならぬ貴方と私たちの仲じゃない」
「お母様の言う通りですよ、シエルさん。セバスチャンも、お久しぶりです」
「お久しぶりでございます。ナナリー様」
柔らかく微笑みかけられたセバスチャンは、深々と頭を下げて礼をした。
今はシエルの執事である彼だが、ファントムハイヴ家に来るまでは、短い間ではあったが、彼女たちに仕えていたという経歴を持つ。そのため、一介の執事ではありえない程、彼女たちと親しくしていた。
「それで、妃殿下」
「マリアンヌ」
「……ま、マリアンヌ様…」
彼女の迫力ある笑みに押されて、どもりながら皇妃の名を呼ぶと、彼女は機嫌良く微笑んだ。
爵位をまだ継いでいないシエルにとって、数いるとはいえ皇妃の名を呼ぶことは非常に抵抗のあることだが、当の本人たっての希望なので叶えないわけにはいかない。執事がついたため息が、彼にはやたら大きく聞こえた。
「ダメですよ、坊ちゃん。頭の固い男は、嫌われますよ」
「うっ、うるさい!!コホンっ、妃…マリアンヌ様。お約束のもの、持って参りました」
気恥しさを空咳一つで収め、シエルはセバスチャンに命じ、持っていた紙袋をマリアンヌに渡した。
それを受け取って中を覗き、彼女は目を輝かせてそれはもう嬉しそうに礼を言った。
「これが噂に名高い、セバスチャン特製カリーパン、ね!」
「良い匂いですね、お母様っ。私、もうお腹ペコペコです」
横から中を覗くナナリーに彼女は頷き、そして2人揃って毒味を行うこともなく、直接手で掴んでそれを食べた。
サクっ、と軽やかな音とともに、スパイスの芳醇な香りと柔らかく煮込まれた具材が彼女たちの空腹感を満たしていく。
「おいし~いっ!!」
「本っ当に最高!今まで食べたどのカレーパンよりもおいしいわ。噂は伊達じゃなかったわね!」
「どのような噂かは存じませんが、お褒めに預かり光栄にございます」
手放しの絶賛に、セバスチャンの顔にも自然と満足そうな笑みが刻まれる。
子供用に甘口もいいな、だの、今度はチーズが入ったものを作ってほしい、だの皇妃と姫君にせがまれる執事だったが、それと反対に、シエルの眉間に刻まれた皺は深くなるばかりだ。
「失礼いたします」
涼しい声がして、シエルの前にアイスティーが置かれた。一口飲むと広がる、爽やかなオレンジの香りに、気分が少しばかり和らぐ。
そこで、気付けば己の執事が小さく笑っていて、シエルは訝しげに彼を見た。
「どうしたんだ?」
「いえ、中々面白いことをなさっているなと思いまして」
そう言ってセバスチャンは、先程の給仕係を見た。
給仕をしていたのは、14,5歳くらいの少年だった。すらりとした体躯に、整った顔立ち。涼しげな目元には理知的な光が浮かんでおり、銀のフレームの眼鏡がそれに拍車をかけている。アイスティーを淹れる手つきは慣れたもので、所作の端から端まで優雅で美しい。
だが、執事が言うように面白いことは一つもない。
再度執事を見ると、わからなかった事実を見抜いたセバスチャンは、呆れた笑顔で主人を見た。
それが癪に障ったシエルは、笑い続ける執事を睨みつける。
「まだ、わかりませんか?ニブイですねぇ」
「何がだ?嫌味は止めて、はっきり言え」
「まだわからないのか、は、私の科白だと思うんだがな。セバスチャン」
苦笑する給仕の少年に頭を下げた執事に、シエルはじっと少年を見る。
すると少年は眼鏡を外し、シエルに向かって、メディア向けのロイヤルスマイルを見せた。
「私だ、私」
「………る、ルルーシュさまぁっ?!」
たっぷり時間をかけて、シエルは素っ頓狂な声で叫んだ。己の執事がため息をついたが、咎める余裕などない。
そんなシエルを余所に、少年…マリアンヌ皇妃の長子、ルルーシュ姫は、妹のナナリーとともに大喜びしていた。
「やりましたね、お姉様!」
「あぁ。母上、これで留学を認めてくださいますね?」
「約束だもの、仕方ないわね。2人とも、バレないようにしてても、気をつけなさいね」
「「はいっ」」
心配と呆れを半分ずつ織り交ぜた顔をするマリアンヌに、彼女の娘達は元気に返事をした。
一方、彼女たちの様子に事情が呑み込めないのは、シエルとセバスチャンである。
「ルルーシュ様、留学とはどういうことですか?」
ショックで未だ放心状態の主に変わり、セバスチャンはルルーシュに尋ねた。
「留学というか…実は、母上と賭けをしてな。もし私をよく知るシエルが、男装した私に気付かなかったら、学校に通わせてもらうことになった」
「学校といっても、ミレイさんとカレンさんがいるアッシュフォード学園ですよ。それに、学生として通う間は身分を一切隠すのが条件なんです」
「お忍びで、ですか。しかし、皇帝陛下がよくお許しになりましたね」
「「言ってないからな(ですよ)」」
笑顔で否を唱えた姉妹に、思わず彼女らの母親を見ると、彼女の方も当然と言わんばかりに笑顔を浮かべていたので、2人はそのあたりの事情を流すことにした。
しかし、何故今頃そんなことを言い出したのか。そんな思いを察したルルーシュは、物憂げな視線で遠くを見た。
「この間、アイツがこの宮殿を去った」
「アイツとは…ルルーシュ様の護衛の…」
「長い付き合いだった、とは言えないけど。私の護衛の中では一番隣にいた奴だった。そしてこれからもずっと、隣にいてくれるものだと思っていたんだが…」
「別に坊は、辞めたわけではないのだがのう」
ルルーシュの話にするりと入り込んだ別の声に、思わずシエルが身構える。
しかし、彼以外は誰も身構えることはなかった。
その様子にシエルも警戒を解く。それと同時に、どこからか1人の女性が現れた。
「ファントムハイヴ伯爵家次期当主殿、お初にお目にかかる。ルルーシュ姫の護衛代理及びナナリー姫の護衛をしております、四楓院夜一と申す」
にぃ、と笑って国が発行した正式なボディガード証を掲げた彼女に、セバスチャンは聞き覚えがあったのか、その名を呟いた。
「四楓院…聞いたことがあります。確か、世界各地の武術大会に風の如く出没しては、ことごとく優勝杯をかっ攫っていったという伝説の、武術の達人がそのようなお名前でしたね」
「ハハッ、数十年前まではそんなこともやったのぉ。儂がいることも気付いておったし、噂通り、執事殿は有能な方のようじゃな」
からから、と快活に笑う姿は清々しく、話し方や数十年前という言葉から連想させる年齢など一切感じさせない若々しさが、彼女にはあった。
「それで、護衛代理、というのは?」
立ち直ったシエルが尋ねると、夜一はルルーシュの方を見遣り、彼女が頷くのを確認してから話し出した。
「あの坊は儂の弟弟子の息子でな。その縁で、今回あやつが戻ってくるまで、ナナリー姫の護衛という名目で、ヴィ家の2人の姫君の護衛を引き受けたというわけだ」
「名目?」
「建前上、坊はルルーシュ姫の護衛から外れておらぬからの」
この国は有事の際を除き、皇帝以外、皇族1人に対し1人の護衛しか認められていない。そのため、彼女が護衛として宮殿に入るには、誰かの名前が必要だったのだ。
今までルルーシュの護衛だった者が名前を外していないのなら、彼女達に近付くためにはナナリーしかいない。これまで彼女自身は護衛を必要としていなかった(というか必然的にルルーシュとワンセットで護衛されていた)のだが、こういう事情だからと彼女は快く名を貸したというわけだ。
「では、彼はまた帰ってくるつもりなのですね」
「一応、な。ただ、それがいつになるかはわからないらしい」
ため息をついた麗しの姫君は、だが次の瞬間、とんでもないことをのたまった。
「だから、こちらから出向いてやろうという話になったんだ」
話が一気に見えなくなったシエルは、困惑に顔を引き攣らせた。
「……はい?」
「アイツがここを出てそろそろ3ヵ月は経つ。城の中で過ごすのも父上や兄上方の相手をするのも退屈になってきたことだし、それならいっそ家出してみるのもいいんじゃないかと思ってな」
「…な、ナナリーさま?」
「どうせなら、あの子を追いかけて行ってみようかって話になったんです。行った先は前以て聞いてましたし、私達はその近くの学園に通うんですけど、そこはお姉様の騎士を務めるミレイさんとカレンさんが通っているんですもの」
これを運命と呼ばずしてどうする、と言わんばかりの顔で、ルルーシュとナナリーはそう言った。
あまりに突拍子ない考えに、周りの人間を見るが、夜一は視線を外し、マリアンヌは読めない笑顔を浮かべ、己の執事にいたっては面白がって笑うばかりだ。
そして、これは止められないんだろうな、と諦めたシエルを、悲劇が襲った。
「そうですっ。どうせなら、シエルも一緒に行きませんか!」
突然出されたナナリーの提案に、先程よりもたっぷりと間をあけて、シエルは聞き返した。
「……………は?」
「さすが、ナナリー。どうだ、シエル?お前も学校には一度も通ったことがないだろう?将来のために、社会勉強で行ってみるのも面白いと思うぞ」
「アッシュフォード学園の生徒は、貴族の子女や大企業のご子息方が大半ですから、仲良くなったら得な相手もたくさん探せますよ」
「あら、それはいい考えね。ウチの子たちが一緒なら、伯爵も許すでしょうし、私も一筆書いてあげるわ。セバスチャン、伯爵に渡してくれる?」
「ありがとうございます。マリアンヌ様」
あまりのことで呆然とする当事者を余所に、あれよあれよという間に周りで話が進み、シエルが我に返った時には、留学先から時期から話は全てまとまってしまった後だった。
「なんだか楽しい学園生活になりそうですね、お姉様!」
「そうだな、ナナリー。シエルもいるし、アイツの驚く顔も見れるし、楽しくなりそうだな」
喜色満面の表情で今後を話し合う姉妹が、ほんの一瞬、悪魔に見えた若き伯爵家次期当主は、知ってて止めなかったにやにや笑う己の執事を、八つ当たりのように思い切り睨みつけた。

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